建設業と賃上げ

はじめに

年が明けて、2月くらいから、いわゆる春闘の動きが加速します。私たちが子供の頃には、毎年のようにストライキがあって、賃上げ交渉と交通機関の乱れが、日常の出来事でした。

しかし、バブル経済の進行と共にストライキも姿を見せぬようになり、春闘とは、いわゆる企業内労組と経営陣との意見交換の場と化した様子です。

とは言え、上場企業や労組のある企業は、年々のベースアップ(ベア)の積み重ねにより、その他の企業との賃金格差が広がっていることは明白です。

私たちの建設業では

建設業も、大はスーパーゼネコンから、小は一人親方まで、幅広い企業群で構成されていますから、賃上げや賃金について一概に論じることは不可能です。

ですから、この場では、地場中堅のゼネコンやサブコンをイメージして、論を進めたいと思います。

「この2022年の春闘をどのように捉えるのか?」

において、いくつかの論点を考察したいと思います。

①コロナ禍の終わりの始まり

まずは、2020年に始まった「コロナ禍」です。

2020年と2021年の春闘は、「コロナ禍」抜きには語れません。いずれの企業にせよ、昨年までの2年間は、暗中模索を続けていました。

当時、企業としての最重要ポイントは雇用を守る、ということです。「コロナ禍」は、第二次世界大戦が終わった後の世界経済にとって、最もインパクトがありました。先の見通せない状況の中で、雇用を守ることは、とても大きなリスクです。需要の変化に伴う、受注量の激変も考えられ、私たちの建設業界でも大きな混乱が起こりました。

予定されていた着工も延期され、経済活動の自粛の中で竣工も伸び、業界として一歩先が真っ暗な状況もありました。

ですから、多くの企業では、この2年間の賃上げに対しては、「最低限の義務を果たす」ということが最重要で、ベースアップに踏み切ることには躊躇いがあったと思います。

この2022年の春には、この2年間の「コロナ禍」における自社の影響や状況を鑑みて、その対処が必要になると言えます。端的にいうと、この2年分のベースアップを含めてこの春には対処すべきだと思います。

②過去数年の内部留保の状況

次に2020年以前の内部留保を考えてみましょう。

企業は、連続的な活動の中で判断を繰り返しています。

例えば、春闘などもこの数年の実績とこれからの見通しの中で、一定程度の労使の妥協のもとでベースアップを決定してきました。

それが、2020年「コロナ禍」のために、これまでの実績への考察が中断されたのです。「コロナ禍」という大きなファクターの出現により、企業の連続的な活動に終止符が打たれ、前代未聞の状況の中での判断が求められました。

ですから、この春のベースアップを考えるときに、2020年以前の実績の変遷を再度視野に入れて考慮すべきだと思います。

③これから5年程度の見通し

最後は、これからの見通しです。

資材の高騰、エネルギーの逼迫、インフレ懸念、世界情勢の悪化、相互不信など、様々な状況の変化が想定されます。

この変化の時代にあって、私たち建設業界が守らなければならないものを考えてみましょう。

この守るべき重要なものの一つは、技術の承継です。

建設業を支える技術者集団を、なんとしても守らなければなりませんし、次の世代への承継を進めなければなりません。

その意味において、建設業界が、地域の他の業界に比べて魅力的な存在になる必要があります。

中期的な展望の中で、この状況をチャンスと考えて、打てる手を考えましょう。

日経新聞の2022年3月13日の第5面には

「賃上げ率2%超えなるか」との見出しの元で、16日が春季労使交渉の集中回答日である

ことを伝えています。

「この20年以上に及ぶ日本の賃金低迷に終止符を打ち、持続的な賃上げの流れを作り出せるか。賃上げ原資を生み出すための生産性改善や、働き手の貢献に応じた分配の仕組みづくりも課題だ。」

と記事は語ります。

終わりに

私たち建設業界として、この春闘に対する姿勢は、ことのほか大きなポイントになると思います。

日本経済というか、地域経済を担う、私たちの業界として、会社の永続性の向上の一つとして、魅力ある職場づくりという大きな課題に向き合う時が来ています。

「生産性の向上をどのように成し得るのか?」という課題はありますが、現場と経営とがスクラムを組み力を合わせ、知恵を出せば、まだまだ成長する余地は残されています。ぜひ、今回の「コロナ禍の終わりの始まり」をビジネス上のチャンスと捉えて、可能なオプションを広げていただければ幸いです。

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