はじめに
失われた30年と言われて久しい日本経済ですが、果たして私たちの建設業界にとって、インフレやデフレ、好況不況はどんな影響があるのでしょうか?
岸田内閣の新しい資本主義とか、安倍内閣の脱デフレ政策とか、バブル崩壊後の30年間の日本経済は、経済成長率、所得成長率、一人当たりGDPなどの基礎的指標において、先進的なG20はおろか、その他の国々にも大きく水を開けられています。
その原因として取り上げられるのが、デフレです。いわゆるデフレは、需要より供給が勝り、供給過多によって商品価格が将来的に安くなる状態であり、インフレは、逆に需要より供給が不足し、需要過多によって商品価格が将来的に高くなる状態です。
なぜデフレは悪いのか?
デフレ状態では、将来的な価格が弱含みであるために、「今買おう」という気持ちよりも、「後で買おう」という判断になりがちで、この消費者マインドが次のデフレを引き起こし、いわゆるデフレスパイラルを脱出できなくなる、と言われています。
そして、デフレによって、モノの価格の下落が賃金の下落を招き、経済発展や幸福度の向上を阻害していると考えられています。
2022年2月18日の日経新聞では
経済教室の中で、佐々木勝大阪大学教授が、「賃上げの課題(下)『適所適材』雇用で生産性向上」と題して、岸田首相のデフレ脱却について記述しています。
そのポイントは、
①雇用のミスマッチあると生産性引き下げ
②解雇規制緩和は労働者にプラスの側面も
③「ジョブ型」に雇用のミスマッチ防ぐ効果
としています。
いずれも、この30年でさまざまに論議されている課題であり、特に目新しいものはありませんが、それだけに本件の本質をついたポイントとも言えます。
業界にとっての影響は
この失われた30年の良し悪しは後程述べるとして、この状態が私たちの建設業界にとって、よかったのか?悪かったのか?を考えてみたいと思います。
結論から言うと、私は良かったのだと思います。
なぜならば、この30年間で私たちの業界は確実に縮小しています。
※国土交通省の令和元年8月30日付、平成30年建設業活動実態調査では
常時就労数で、平成6年は264,650人が平成30年では171,162人ですし、売上では、平成6年は24兆5,315億円が平成30年では15兆835億円に減少しています。
縮小している現状をなぜ良い状態と呼べるのか?
それは、適正な市場規模が現在だからです。
全国的に人口が減少する時代にあって、労働人口も相応に減少していきます。いわゆる右肩下がりの状況を現実的に実現したのが、私たちの建設業界です。
ですからこそ、この状況にあって、各業界内企業が過当競争に至らずに、適正な発展を遂げていると考えられます。
業界が全体的に成長を続けていると、いずれはその成長は頂点に達し、以後縮小が続くのです。私たちの業界も同様の変化を過ごしてきました。
その中で、必要な新陳代謝があり、現在の状況を迎えています。
では、インフレであれば、どうだったのか?
インフレであれ、デフレであれ、この30年間の世界的な経済発展においては、世界的分業が桁違いの進展を遂げ、先進諸国において輸出入できるものの価格は下落しています。
そのような経済環境の中では、先進諸国において経済成長とは、簡単に言ってしまえば、付加価値量の向上であり、つまり、賃金の向上にほかならないのです。
日本においては
この30年において、周知の通り所得の向上が見られず、自ずと経済成長率は、周回遅れの様相を呈しています。
とは言え、国内だけで過ごしている人には、この低成長の影響はそう大きくはありません。ところが、アメリカをはじめとした経済成長の力強い国との交流や交換を行うと、この低成長のツケは、体感的に感じられるものです。
結論として
私たちの建設業としては、業界として少子高齢化から、縮んでいく経済を先取りし、その対応を間違うことなくやり遂げている、という意味において、この30年は大成功だったということです。
失われた30年を前向きに捉え、経済成長に頼らない業界として、独立的で永続的な経済活動を進めていきましょう。その中で最も大切なことは次の世代のために人材を育成し続けることです。